不思議話

【怖】仁王立ちした黒い影

 

人の姿をした黒い存在。人目を窺いながら罠をしかけてニヤリと歯を見せて笑う。その黒のベールに包まれた人物を、小さな名探偵が残された数少ない証拠や話を聞いた上で抱く違和感、知識と柔軟性に富んだ頭脳で正体を暴いていく。名指された黒い影の人物は項垂れ、泣き崩れるなどして自らの犯した罪を後悔する。

黒い影と言えば、日本を代表する有名な漫画だという方もいるかもしれない。毎度おなじみのその黒を身にまとった人物に固有名詞が与えられて、犯人役の姿が主人公の漫画はなかなか面白かった。が、ここに書くのは架空の人物の黒い姿ではなく、現実で見たものの話。

夏頃のこと。徒歩でドラッグストアに向かっていた時のことだった。

田舎では、都会のようにきっちりと車と人が通る場所が分けられているわけではなく、白線の内側が人の歩くところが多かったりする。そのため、白線はあるものの歩くスペースがものすごく狭いところもあり、あえてそこを避けて別の道を歩いたりすることもある。

いつも、真っ直ぐ行けば目的地のドラッグストアまでの距離は少し近くなるものの、歩くスペースが激狭の部分があるがために途中で曲がる。その道も歩行者の為の道は白線で仕切られてるだけだが、車の通りも少ないから歩きやすい。曲がり道の先には短いトンネルがあり、その上の車の交通量は多いため騒音もなかなかのものだ。

そういった場所は昔から苦手で、暗いからなのかただ怖いからなのか自分でもわからないが、できれば通りたくないと思う場所の一つでもあった。だから、いつも短いトンネルの手前にある車一台が通れるほどの細い道を通ってドラッグストアに行っていた。

その日もいつもと同じルートでドラッグストアに向かっていた。そして、例のトンネルが見える道に曲がって暫く歩いた時である。昼間でも暗いトンネルに人が立っていた。それも、歩いている間も微動だにせず、何故か仁王立ちしている。

姿は真っ黒で顔がどちらにあるのかわからなかったが、腕を組んでいるように見えた。服も工事現場の格好のような、下がだぼっとしたズボンで頭部はヘルメットをかぶっているように丸い。肩幅よりも広く開いた右側の足の先はトンネルの壁にぴたりとついているし、左側の足元にはこれまた黒い物体が置かれていた。サイズ的に言うと犬のポメラニアンとかそういうものだった。

気が付いた時には周りに誰もおらず、あまりにも奇妙で引き返して白線の内側がほぼない部分がある道を行こうかと思ったが、こんな時にも面倒だという気持ちが勝った。黒い影との距離が近くなる間は、なるべく見ようとはせずに足早にトンネルの手前で曲がった。

追いかけられることもなく無事にドラッグストアで買い物をして、帰る時は別の道を通って家に帰った。あれは何だったのだろうか。いくらトンネルの中と言えど昼間で、ある程度姿は見えるはずだ。

工事の時に使われる車を誘導する人型の物にしては足を開いて立っていたし、異様なほど真っ黒だった。ただ、今の所家の前に黒い影がいるなどといったことはないので、ついてきてはないと思いたい。

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